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iPad miniにみる破壊的テクノロジの脅威

昨夜、というか今日の早朝にAppleの新製品発表会が行われた。事前の予想どおりiPad mini(と第4世代のiPad)が発表された。今回は、この新製品について思うことをちょっとまとめて見ようと思う。

Kindle Fire、Nexus7 = 破壊的テクノロジ?

まずは、なぜこの時期にAppleiPad miniを発表したのか考えてみたい。

2010年の4月にiPadを引っさげてAppleがタブレットという新しいマーケットを創りだしてから、わずか2年。ノートPCの市場を奪いながらiPadはマーケットを席巻してきた。ラップトップよりも機能は少ないが、iPadは一般ユーザが主に利用するメールやWeb、SNS閲覧といったポイントをがっちり抑えていた。その結果、順調にシェアを獲得し、タブレット市場でのiPadの地位は安泰に思われた。ノートPCに対する破壊的テクノロジとしてのタブレット、という位置づけと見ることもできる。

ところがここ最近、AmazonやGoogleといったAndroid陣営が7インチタブレットという新しいジャンルのタブレットを投入した。低価格を武器に急激に注目を集め、それはもはや高機能タブレットであるiPadに対しての破壊的テクノロジとも言える存在に思われた。

そんな巨人の殴りこみに、さすがのAppleも指をくわえて見ていることはできなくなった。Appleとしては、低価格小型AndroidタブレットにiPadの牙城を崩されることは決して喜ばしいことではない。そこで、やむなく対抗する製品を投入することにしたのではないか、と私は見ている。

実際、大型化したiPhone5やiPadとの住み分け、カニバライゼーション(自社内での競合)を考えればここにAppleのメリットは多くない考えられる。価格競争を余儀なくされるフィールドであるし、かの偉大な創業者である、スティーブ・ジョブズもここへの進出には反対だったと聞く。

iPad miniの製品戦略

イノベーションとか破壊的テクノロジというのはよく議論・研究されていて、その対応方法にもいくつかセオリーがある。

MITの研究によると、やられた側について、対応する気力・能力ともに十分な場合「Adopt the Innovation by Playing Both Games at Once」という戦略が考えられる*1。つまり、従来の製品も継続しつつ、破壊的テクノロジを自ら取り入れてそのフィールドで戦う、というやり方である。

出血を覚悟しつつ、破壊的テクノロジフィールドでもガチンコの勝負に出るというそれは、正に今回のAppleの戦い方にあてはまるように思われる。

ちなみに、今回iPad miniはiPad2と同じ解像度が採用された。つまり、従来のソフトウェアを改修することなしに動作させられる、ということだ。だが、これは同時に、いつでもiPad miniをなかったことにできる、ということでもある。

ガチンコの勝負をしかけたAppleは、iPad miniでいずれ競合を滅ぼした暁には(もしくは出血多量になった時には?)、この望ましくないラインナップを市場から引き上げる、ということに含みを残したのだ。これこそが、今回iPad miniがRetina Displayを採用しなかった隠れた理由なのではないかと思う(もちろん主たる理由は価格)。

複数種類あるのは巧妙なSIM LOCK

今回のiPadではLTE対応の強化が行われたことに気づいただろうか。対応キャリアが増えたのである。ところが、残念なことに、キャリアに応じて2種類のiPadが用意されているようである(参考)。

ところで、なぜ、Appleは統一された制品を一つだけ投入するのではなく、わざわざLTEバンドに応じたモデルを用意したのだろうか?私は、これは技術的な要因*2というよりは、巧妙なSIM LOCKを狙っていると見ている。

今回のスペックを見るに、米国やカナダの一部のキャリア(AT&Tなど)向けとそれ以外でモデルがわかれている。つまりAT&T用のiPadを北米で買った人は、香港でLTEを利用することはできない。3Gは利用可能と見られるが、それでも魅力は半減しているといえる。

この状況は一昔前に見られたキャリアを跨いで端末を使えない状況、そう、SIM LOCKを彷彿とさせる*3。SIM LOCKは、販売ノルマを抱えかつユーザをなるべく引き止めておきたい*4キャリア側にも、一台でも多くのiPadを売りたいAppleにとってもメリットがある。同然だが、この辺りの仕様策定にあたっては、周辺キャリアとのすり合わせを行なっているハズである。

とはいえ、3種類のモデルが用意されているiPhone5よりはちょっと状況は改善されたと言えそうだ*5。ちなみに、複数モデルを抱えるデメリットとしては、サプライチェーンや製造行程の複雑化、及びそれに伴う規模の経済へのダメージなどが考えられる。今回はそのデメリットよりもSIM LOCKによるメリットが上回ると判断されたものと思われる*6

「新しい iPad」についてはどう見る?

iPad miniの投入みならず、この時期にiPadもアップデートしたのは個人的にはちょっと驚きだった。前回から6〜7ヶ月という短いサイクルだったからだ。

二点ほど理由を想像してみた。一つはLightning端子の普及促進、もう一つはフラッグシップモデルとしての対応である。iPhone5を発売したとき、既存の接続ケーブルと形式を変えた事で、その切り替えについて批判を浴びたApple。エコシステムを拡大する(ことでユーザにも利益がある)、という観点からも彼らとしてはこの端子をいち早く普及させたいと思っているのではないだろうか。また、ラインナップの整合性を保つ上で、上位モデルは最新、最高のスペック(CPU、端子、LTE対応)を付しておくことにしたのではないか、と予想する*7

おわりに

と、思うことを書いてみたが、ここに書いた事は、すごく当たっているかもしれないし、全然違うかもしれない。言われてみればそういう風にもみえるよねー、ぐらいに思ってもらえればと思う。とはいえ、有名な会社の戦略と製品についてあれこれ妄想することは、結構楽しいものである。

*1:その他にもAttack Back - Disrupt the Disruptionというのもある

*2:より幅広いバンドをカバーする部品はある、と思う

*3:ちなみに対応バンドを見る限り日本でKDDI及びソフトバンクから発売されるのは同一モデルであると推定される

*4:ソフトバンクは先日のEモバイル買収の際、新規ユーザの獲得コストを3万円として効果を試算していた

*5:CDMAモデルは国際GSMモデルの機能を内包している

*6:もちろん状況に応じて将来的にその判断は変わっても不思議ではないが、こういう武器を持っておくことは悪いことではない

*7:いずれにしても、前からRetina iPadを狙っていた自分として、選択肢が増えて良い状況になって、何気にうれしい